2歳の男の子が、ペットボトルに移し替えた洗剤を誤飲する事故が発生しました。
祖父が2歳の男の子にお茶だと思って洗剤の入ったペットボトルを与え、2歳の男の子は入院するに至りました。
最終的に2歳の男の子は元気に退院しましたが、食品容器に食品以外のものを入れて保管して誤飲する事故は全国でも起きています。
本記事では、事故の原因や未然に防ぐための対策方法を日本小児科学会が公開した情報を元に紹介します。同様の事故が起きないように対策を学んでください。
目次
事故発生の原因
祖父は、ワックス剥離剤(住居用洗剤)の原液を緑茶のラベルが貼られたままのペットボトルに入れ、冷蔵庫に保管していました。
ワックス剥離剤の液は緑色で、緑茶と言われてもわからない色調でした。祖父はそのペットボトルを「お茶」と思って公園に持参しました。
5月13日の午後0時30分頃、祖父は2歳8ヶ月の男の子にそのペットボトルをお茶と間違えて与えます。2歳8ヶ月の男の子は一口飲んですぐ吐き出しますが、口の中を痛がりました。祖母が試しに舐めてみたところ、ひりひりと舌がしびれました。
病院の治療・手術
午後1時、祖父母と2歳8ヶ月の男の子は病院を受診しました。
酸素飽和度の低下はなく、呼吸障害も認められませんでした。舌は白色に変色しており、口腔内には一部出血斑が見られました。喉頭ファイバーでは、咽頭と喉頭の発赤を認めました。
3時間30分後、嗄声を認めるようになり、喉頭ファイバーにて喉頭蓋と披裂部の著明な腫脹を認めました。進行性の喉頭浮腫のため、ファイバー下に気管挿管します。気管内に糜爛などは認められませんした。続いて施行した上部消化管内視鏡検査では、食道全長にわたる全周性の糜爛と、胃噴門部周囲の糜爛を認めました。
気管挿管は6日間行われました。抜管後、呼吸状態は安定し、発声も特に異常はありませんでした。
上部消化管の内視鏡検査は、受傷7日後と15日後に施行されました。食道及び胃の粘膜は正常粘膜まで治癒し、狭窄はありませんでした。
誤飲から17日後、経口摂取も問題なく退院となりました。
類似傷害・事故
同様の類似事故は、日本全国で頻繁に起きています。
日本小児科学会のレポートにまとめられている3件の類似事故を簡単に紹介します。
類似事故(油汚れ用の強力洗浄剤)
2015年6月2日、8歳の男の子の母親は普段から職場にある業務用アルカリ性洗浄剤をペットボトルに入れて持ち帰り、家で使用していました。いつもはペットボトルに飲んではいけないと印を付けていましたが、この日は職場からペットボトルをビニール袋に入れて持って帰り、リビングのテーブルの上に置いて印はつけていませんでした。
午後9時30分ごろ、母親が目を離している間に8歳の男の子が「お茶」だと思ってビニール袋を開け、ペットボトルの中に入っている液体を口に含みます。
8歳の男の子は変な味がしたのですべて吐き出し、その後普段通りに夕食に食べます。喉の痛みはありましたが元気なため様子を見ていました。
翌日、耳鼻咽喉科を受診した際に、軟口蓋の発赤・腫脹を認めたため、より大きな病院を紹介されます。8歳の男の子は液体を飲み込んでいないと言っていましたが、実際には飲み込んでいました。
食道潰瘍がある可能性もあり、上部消化管内視鏡検査を行います。食道・胃には粘膜病変はありませんでしたが、右披裂部に発赤を認めます。気道閉塞の可能性もあったため入院となります。
入院2日目、軟口蓋と披裂部の発赤・腫脹は変わりません。
入院3日目、症状の改善があり、4日目に退院しました。
なお、この時の直接医療費は76,610円でした。
類似事故(エアコン掃除用のアルカリ性洗剤)
2017年8月5日の午後2時30分ごろ、5歳5ヶ月の子どもと両親、兄弟は一緒に引っ越しの片付けをしていました。
片付けの最中、両親が知人からもらった非売品のエアコン掃除用のアルカリ性洗剤が入ったペットボトル(500mL、ラベルは剥がした状態)を、5歳5ヶ月の子どもが飲料水と間違えて一口飲んでしまいました。洗剤は無色透明で少し甘い匂いがしていたそうです。
5歳5ヶ月の子どもがむせ込んだため、近くにした両親がそれに気づき、すぐに吐き出させます。しかし、その直後から嘔吐がはじまり、続けて腹痛が起きます。
誤飲から1時間後、医療機関を受診しました。
5歳5ヶ月の子どもの呼吸状態は安定しており、腹痛は軽度でした。そのまま入院し、補液、抗菌薬加療を開始しました。翌朝に腹痛がなくなり、嘔吐症状も徐々に改善し、2週間で退院となりました。
退院から2週間後、嘔吐症状が再燃し、かつ固形物の飲食が困難となり同病院を再診しました。
透視下食道造影検査で食道中部から下部にかけて狭窄がありました。内視鏡下食道バルーン拡張術を行いました。
その2週間後、透視下食道バルーン拡張術を行い、症状はなくなりました。それ以降も外来での継続加療を行いました。
なお、この時の直接医療費は875,310円でした。
類似事故(レボセチリジン塩酸塩シロップ)
2018年8月のある日、2歳5ヶ月の子どもと祖母は自宅で留守番をしていました。
外出前に母親が、昼食後のカルボシステインシロップ1回分を別容器に取り分け、自宅のダイニングにある食器棚の中(高さ1.2m程度)に投薬瓶とともに保管しました。この同じ場所には、レボセチリジン塩酸塩シロップが入った投薬瓶も保管されていました。昼食後、取り分けてあるカルボシステインシロップのみを2歳5ヶ月の子どもに内服させるよう、母親は祖母に伝えていました。
午後1時00分頃、昼食後に祖母はカルボシステインではなく投薬瓶に残っていたレボセチリジン塩酸塩シロップを誤って全量を2歳5ヶ月の子どもに内服させます。
母親は午後6時に帰宅し、午後7時の夕食時に2歳5ヶ月の子どもが傾眠傾向であることが気になります。夕食後、母親がレボセチリジン塩酸塩シロップを内服させようとした際に残薬がなく、そこでレボセチリジン塩酸塩シロップを過量内服したことが判明しました。傾眠状態が続いたため、医療機関を受診しました。
来院時、2歳5ヶ月の子どもの気道は保たれており、体温は37.7度、心拍数145/分、呼吸数36/分、SpO2 99%(室内気)と呼吸・循環は保たれていましたが、JCS2桁の意識障害がありました。
モニター装着、補液のみで経過観察入院となります。入院翌日には意識清明となり、ふらつきなく独歩可能であったため、退院しました。
なお、この時の直接医療費は151,020円でした。
予防と対策方法
食品を入れる容器に食品以外のものを入れて保管し、誤飲する危険性が高くなることはよく知られています。今回の事故では、お茶のペットボトルに緑茶の色をしたワックス剝離剤を入れ替え、さらに食品を保存する冷蔵庫に保管しておいたことが主原因です。
清涼飲料水の入っていた空のペットボトルは液体の保存に便利であり、これを大々的に禁止することは難しいと言えます。そのため、たとえば剝離剤に色を添加するのも解決法のひとつです。液体の色が飲料水に見えない青色などであれば気が付いたかもしれません。
乳幼児の誤飲の事故を防ぐため、製品に苦味や塩味などを添加したりする取り組みがされていますが、液体は舌で味を認識するより前、あるいは同時に咽頭と喉頭に到達するため、味付けによる予防策はむずかしいのが現状です。
子どもの生活環境に存在する化学製品で誤飲すると重症度が高い物質は、化学製品を他の容器に移し替える機会を減らすように容器を小さくし、1包装の容量を減らし、また移し替えの危険性についての表示を大きくするなどを検討し、社会全体で変えていく必要があります。
出典:公益社団法人日本小児科学会「No.014 容器の移し替えで発生したワックス剥離剤の誤飲による食道粘膜損傷」