スリングを使用して抱っこしていた女の子(生後2ヶ月)が窒息死する事故が発生しました。
母親は電車内で、女の子の顔を含めて全身を包み込むように使用していました。
便利な育児用品としてポピュラーなスリングですが、アメリカ合衆国では生後4ヶ月未満の乳児にスリングを使う場合は窒息の危険性があると報告しています。
本記事では、事故の原因や未然に防ぐための対策方法を日本小児科学会が公開した情報を元に紹介します。同様の事故が起きないように対策を学んでください。
目次
事故発生の原因
2009年10月18日の午後4時20分ごろ、母親は帰りの電車内で女の子(生後2ヶ月)をスリングを使用して抱っこしていました。スリングは顔を含めて全身を包み込むように使用しており、女の子が入眠したのも確認しました。家族(父母と子ども2人)で遊びに行った帰りのことでした。
16時45分ごろに電車を降り、17時ごろに帰宅してスリングから女の子を降ろしたところ、ぐったりしており呼吸をしていませんでした。
今回、母親は女の子に対して初めてスリングを使用しました。一枚布のスリングを顔を含めて全身を覆うような使い方をして、外からは子どもの顔が見えない状態でした。
※スリングが市販のものか自作のものかは不明とのことです。
病院の治療・手術
17時9分、母親は救急隊を要請しました。救急隊からはBy Stander CPR(心肺停止の場に居合わせた人による心肺蘇生のこと)を指示されました。
17時17分に救急隊が現場に到着し、モニター上を確認したところ心静止でした。そして、心肺蘇生を継続されながら救命救急センターに搬送されました。
来院時は心肺停止状態であり、体温は32.9℃、両側瞳孔散大、対光反射は認められませんでした。
理学所見上、体表に皮下出血ややけどの跡はなく、首に圧迫痕は認められませんでした。
来院後の各種処置により一時的に心拍は再開しましたが、翌午前1時35分に死亡が確認されました。
類似傷害・事故
2019年3月、ある日の午前0時ごろ、母親は女の子(生後1ヶ月)をスリングで抱いた状態でシートベルトして車の運転をしました。飲食店へ行った帰りのことでした。
0時30分ごろ、自宅に着いて女の子をベッドに寝かせようとしたところ鼻血が出ており、反応がないことに気づいて救急隊を要請しました。
救急隊の到着時、母親は台所で胸骨圧迫を施行しており心肺停止状態でした。
1時4分に医療機関に到着し、気管挿管および骨髄路を確保しアドレナリン0.05mgを計3回投与したところ、1時24分に自己心拍再開しました。心肺停止時間は最大で90分程度と考えられました。自己心拍再開後も瞳孔散大固定しており、自発呼吸はありませんでした。
その後も医療処置が行われましたが、18時半過ぎに女の子の死亡が確認されました。
窒息による心肺停止と判断され、警察による調査や児童相談所の介入がありましたが明らかな事件性はありませんでした。
なお、この時の直接医療費は250,000円でした。
予防と対策方法
2010年3月12日、アメリカ消費者製品安全委員会(CPSC)が生後4ヶ月未満の乳児にスリングを使う場合の窒息の危険性があることを発表しました。この報告によると、過去20年間にスリングによる乳児死亡は14件あり、そのうち生後4ヶ月未満が12件でした。
また同日、カナダ保健省(HealthCanada)もスリング等を使用する際の転落や窒息事故に関して注意喚起を行いました。
2010年3月26日、日本の国民生活センターは過去10年間にスリングからの転落による乳児の頭蓋内損傷など64件の事故報告があったとして注意を呼びかけました。2008年度は13件、2005年度は9件となっており、生後3ヶ月から生後8ヶ月の乳児に多く、傷害としては「打撲傷,挫傷」がほとんどを占めています。
日本では、スリングは育児用品として普及率が高い製品です。
今回の事故事例から、子どもの顔が常に見えている状態で使用することを周知させる必要があります。また、未熟児、双子、虚弱体質、低体重の乳児にスリングを使用することはハイリスクであるとCPSCが報告しています。お子さんが該当する場合は使用を避けましょう。
スリングを使用する場合は、正しい使い方をするように気をつけてください。
出典:公益社団法人日本小児科学会「No.019 子守帯(スリング)内で発生した心肺停止」