2歳6ヶ月の男の子の指がおもちゃから抜けなくなる事故が発生しました。
最終的におもちゃは病院で除去されましたが、おもちゃの穴のサイズは基準がなく、同様の事故はどのご家庭でも起きる可能性があります。
本記事では、事故の原因や未然に防ぐための対策方法を日本小児科学会が公開した情報を元に紹介します。
同様の事故が起きないよう、それぞれのご家庭で対策方法を学びましょう。
目次
事故発生の原因
2016年5月21日午後4時頃、男の子(2歳6ヶ月)は自宅でおもちゃを開封して、姉(5歳)と遊んでいました。おもちゃ(吹き矢のようにプラスチック製の筒を飛ばすタイプ)は、ファミリーレストランのお子様ランチ付属していたものです。
午後4時半頃、男の子が「とれない、とれない」と訴えました。両親が見ると、おもちゃの筒の部分に右示指が挟まっていました。父親がおもちゃを指から引き抜こうと試みますが、石鹸や洗剤を使っても抜けませんでした。右示指皮膚剝離と出血を認めたため、医療機関を受診しました。
病院の治療・手術
病院にて、近位指節間(PIP)関節にはまっていたおもちゃの除去を試みました。鎮静薬や局所麻酔薬は使用せず、ペンチを使用しおもちゃの筒の部分を割って除去しました。
除去後、右示指末梢の軽度腫脹と擦過傷を認めました。水道水で洗浄し、創傷被覆剤を貼付し外来通院としました。3日後の再診では、経過良好だったため終診となりました。なお、直径は17mm程度、内径は約14mmのおもちゃでした。
類似傷害・事故
類似傷害・事故(3歳4ヶ月)
2014年12月2日午前10時30分、男の子(3歳4ヶ月)は自宅リビングでボルトをナットにはめる子ども用工具で遊んでいました。そのうちナットを左第3指の近位指節間(PIP)関節と中手指節(MP)関節の間の部位にはめ、はずれなくなりました。
母親が自宅で解除を試みますが、男の子が痛がるため外すことができず、徐々に指の腫れもひどくなってきたため、医療機関を受診しました。
病院にて、ナットと指の間にワセリンを塗布して滑りをよくし、捻じりながらゆっくりとナットを抜き取りました。開放創はありませんでしたが、軽度の腫脹のみがありました。感覚や運動の障害はみられず、冷却の指示をして帰宅となりました。
類似傷害・事故(3歳4ヶ月)
2016年12月15日午前9時30分、男の子(2歳4ヶ月)ファミリーレストランで食事をした際に、おもちゃ(プラスチック製の万華鏡で覗く部分が穴になっている)をもらいました。
食事後、自家用車へ乗り込む直前に、父親が男の子におもちゃを渡しました。父親が運転し、母親と姉が同乗していました。出発して数分経った時、男の子の右指が万華鏡の覗き穴に挟まった状態であることに母親が気づきました。母親がおもちゃを引き抜こうと試みますが抜けず、医療機関を受診しました。示指近位指節間(PIP)関節の直径は11mm程度でした。
病院にて、鎮静薬や局所麻酔薬は使用せず、白色ワセリンを塗布し、滑りを良くして除去しました。除去後、指に怪我の様子はなく、追加治療は要さない状態だった為、帰宅となりました。
予防と対策方法
環状の異物が指にはまり込むと、その締め付ける力でリンパ灌流が阻害されるために指が腫張し、さらに圧迫が強くなり、最終的に静脈・動脈の循環障害を生じます。
成人では、指輪が原因となって起こることが知られています。乳幼児の場合、毛髪や糸でも同様のことが起きます。毛髪や糸が手指や足趾に巻きつき、腫張、虚血、変色を生じることをヘアターニケット症候群と呼びます。
国民生活センターでは、2016年12月に子ども向け玩具(誤飲の危険がある玩具や子ども向けの乗り物など)の危険性の啓発および注意を発表し、その中で玩具を選ぶ際に安全性の基準となるSTマークの有無を参考にするよう呼びかけています。STマークは、一般社団法人日本玩具協会が策定した自主規制であり、子ども向け玩具の安全基準(ST基準)に適合していると判断された玩具に付与されます。
今回の事故の原因となったおもちゃは、飲食店の食事と一緒に提供されたものであり、STマークの有無は分かりません。なお、世界的に玩具安全基準では、3歳未満の子どもを対象とした玩具は、誤飲の恐れのある小さな部品を有してはならないとされています。
ST基準については、5歳未満を対象とした玩具では、厚さが1.58mm未満の剛性材料にある丸穴のうち直径が6mmから12mm未満のものを禁止しています。今回の事故の原因であるおもちゃの円筒形の穴については、ST基準では特に基準は設けられておらず、また海外の主要な玩具安全基準にも該当する基準は見当たりません。
乳幼児の手指、特に日本人の小児の身体寸法データブックには「示指が根元まで入る率」というデータが記載されています。穴の形状として「長方形穴」「丸穴」「正方形穴」の3種類で計測が行われ、例えば2歳児において丸穴の根元まで示指が入るのは12mmの穴だと6%、13mmの穴で47%、14mmの穴で59%、15mmの穴だと100%となっています。さらに丸穴においては、示指が根元まで入る穴の大きさは、1歳で14mm、2歳で15mm、3歳で16mm、4歳で17mm、5歳で18mmと記載されています。つまり、乳幼児を対象とした製品の丸穴は18mm以上の直径を確保すれば指ターニケット症候群の危険性を軽減できる可能性があります。
ご家庭でできる対策としては、お子さんに与えるおもちゃに穴がある場合、そのサイズに注意することです。おもちゃの穴については、ST基準にも設定がありません。穴のサイズが18mm以下の場合、差し込んが指が抜けなくなる可能性があります。
出典:公益社団法人日本小児科学会「No.068 玩具による指ターニケット症候群」