0歳の赤ちゃんが抱っこ紐の隙間から落ちる事故が発生しました。
最終的に赤ちゃんは後遺症なく退院しましたが、外傷性くも膜下出血で意識障害もありました。
赤ちゃんを運ぶ装具(抱っこ紐、クーハン、スリングなど)に関する事故は度々発生しており、注意や対策が必要です。
本記事では、事故の原因や未然に防ぐための対策方法を日本小児科学会が公開した情報を元に紹介します。同様の事故が起きないように対策を学んでください。
目次
事故発生の原因
2013年3月28日の午後0時55分、男の子(0歳4ヶ月)を抱っこ紐で固定している状態で券売機で券を購入しようとして、70~80cm程度の高さの台に持っていたカバンを置きました。
そして、カバンから財布を出そうと少し前かがみになった際、抱っこ紐の右脇から男の子が滑るように頭部からコンクリートの地面に転落しました。
すぐに空港職員に声を掛けて救急要請をしてもらい、病院へ搬送されました。
男の子が転落した際、抱っこ紐のベルトはすべて閉めていました。
病院の治療・手術
男の子は病院の頭部CTにて、外傷性くも膜下出血を認めました。
軽度の意識障害があったため、今後のフォローアップを含めてより専門的な病院へ転院搬送されました。
事故から5時間後、フォローアップの頭部CTで出血の増悪を見られませんでしたが、経過観察のためにHCU(高度治療室)へ入室しました。
入室後、意識レベルの低下はなく嘔吐や痙攣もみられませんでした。
事故から2日目にはミルクの経口摂取を開始しました。
一般病棟へ転棟し、事故から5日目には後遺症を残すことなく退院しました。以降、外来での対応となりました。
なお、直接医療費は232,340円だったとのことです。
類似傷害・事故
抱っこ紐による転落事故
2015年1月、男の子(1ヶ月)を抱っこ紐で抱えていた母親は、玄関で落とした鍵を拾おうとして前屈みになった際に男の子が落下する事故が起きました。
男の子は両側前頭部にくも膜下出血、骨折線が認められて入院しました。
1週間後には退院し、それ以降は外来での対応となりました。
クーハンによる転落事故
2017年9月、母親が生後12日の赤ちゃんをクーハンで運んでいた際、クーハンの両ひもが肩から滑り落ちて赤ちゃんが転落する事故が起きました。
赤ちゃんは頭部を骨折しましたが事故後の経過は良好でした。
4日後には退院し、以降は外来での対応となりました。
スリングにより窒息する事故
2009年10月18日、母親は電車内で女の子(生後2ヶ月)をスリングを使用して抱っこしていました。スリングは顔を含めて全身を包み込むように使用しており、母親が気づいた時に女の子は呼吸をしていませんでした。
すぐに救命救急センターに搬送されましたが、翌日に死亡が確認されました。
事故の詳細はこちらの記事をご覧ください。
予防と対策方法
乳幼児を連れて移動する方法は様々ありますが、大人が装具を利用して乳幼児を体の前あるいは後ろに抱えて運ぶ方法が主流です。
これら装具の安全基準は、製品安全協会の「子守帯の認定基準及び基準確認方法」で1976年から定められており、基準を満たした製品には「SGマーク」が付けられています。
この基準では、子守帯の使用形態(背負い/横抱っこ/縦抱っこ/腰骨抱っこ)や構造および強度などの安全基準が詳細に明示されています。
しかし、装具を装着した状態で乳幼児の体に与える影響や装具そのものの安全性に焦点をあてて作られており、乳幼児を装着のために抱き上げたり、装着した状態で移動したりしたときの安全性については、「落下に注意」「大きく前屈み(約45度を超えて)しないこと」「乳幼児が滑り落ちる可能性がある」といった注意喚起に留まっています。
今回の事故では、装着の取り扱いや手順に問題はありませんでした。
しかし、一般的に行う動作である「前屈み」をした為にできた隙間から乳幼児は落下しましたことから、「前屈みは注意しましょう」という注意喚起だけでは防げないと言えます。
そのため、注意して使用するだけでなく何かしらの対策も必要です。
具体的には、装具と乳幼児の体を固定するようなストラップを装着したり、乳幼児が滑り落ちないように隙間ができる場所を覆うことで転落対策をすることができます。
また、抱っこ紐に限らず日本で普及率の高いスリングを正しく使うのもいいでしょう。
スリングの場合は隙間から落下する心配がありません。ただし、こちらも前屈みになった際は注意が必要です。
注意点として、スリングは未熟児、双子、虚弱体質、低体重の乳児にスリングを使用することはハイリスクであるとアメリカ消費者製品安全委員会が報告しています。お子さんがこれらに該当する場合は使用を避けましょう。
出典:公益社団法人日本小児科学会「No.041 抱っこ紐からの転落による頭部外傷」