【No.67】2歳の子どもが薬を29錠誤飲する事故!対策方法は?

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手術や事故の様子などショッキングな表現や画像が含まれる場合があります。

2歳9ヶ月の女の子が、母親の薬を29錠誤飲する事故が発生しました。
最終的に女の子は無事に退院しましたが、全身けいれんを起こしました。薬の種類によっては、重篤な症状になる場合もあり、管理には注意が必要です。

本記事では、事故の原因や未然に防ぐための対策方法を日本小児科学会が公開した情報を元に紹介します。
同様の事故が起きないよう、それぞれのご家庭で対策方法を学びましょう。

事故発生の原因

2016年9月27日午後2時30分、母親は女の子(2歳9ヶ月)と兄(6歳)が2人で自宅の1階リビングで遊んでいたのを確認した後、2階で洗濯物を畳んでいました。
午後2時45分、母親が一度1階に降り、リビングで兄と会話しました。その際、女の子が錠剤のようなものをかじっていましたが、母親はラムネだと思って詮索しませんでした。

その後、母親は再び2階で洗濯物を畳んでいました。午後2時55分、母親が1階に戻ってきた際、キッチンで女の子が階段式の台に登って棚の袋に手を伸ばしているのを目撃しました。その日、階段式の台は棚の横に置いてあり、女の子が台を動かさず登るだけで薬の入った袋に手が届く状態でした。母親が確認すると、女の子の口腔内にごく少量の残薬の痕がありました。

母親が日本中毒情報センターに電話で問い合わせている最中、女の子が徐々に傾眠傾向となったため救急要請しました。薬は母親の内服薬である錠剤(20mg)で、もともと84錠ありました。母親が誤飲を認識した時点で残薬が55錠であったため、女の子が29錠を内服したと推測されました。薬はすべてPTP包装されていましたが、29錠分開封されており、包装シートは誤飲されていませんでした。

病院の治療・手術

午後3時50分、病院搬入時にGCS(グラスゴーコーマスケール)で11点と意識障害を認めますが、気道・呼吸・循環は保たれていました。トライエージ(尿中簡易薬物スクリーニングキット)は陰性であり、心電図に異常はありませんでした。女の子は一時的に興奮状態となることもありましたが、興奮が落ち着くとバイタルサインは安定しました(心拍数103回/分、呼吸数23回/分、血圧84/31mmHg、SpO2 97%(大気下))。

午後5時に全身性間代性けいれんが生じ、ミダゾラム0.1mg/kgを2回静注しました。けいれん様の動きは頓挫しましたが、意識障害が遷延し呼吸抑制を認めたため、気管挿管の上、人工呼吸による集中治療管理を開始しました。頭部CT、MRIでは器質的異常は認めませんでした。持続脳波で全般的徐波を認めましたが、経過とともに改善し、入院2日目には年齢相当の脳波所見となりました。
入院3日目に抜管し、入院4日目に一般病棟へ転棟しました。その後は意識清明で、入院8日目に退院しました。入院中にメディカルソーシャルワーカーが介入し、家庭支援センターとの地域連携を調整しました。また、今後の女の子の発達・発育は外来でフォローアップ予定となりました。

類似傷害・事故

類似傷害・事故(ビタミン剤の誤飲)

この家庭では、リビング内の高さ100cmのオープンラックに置いた蓋のない籠にビタミン剤 の入った容器を収納していました。容器は開封済みで、ビタミン剤の残数は約17錠ありました。

2017年7月4日の午後1時15分頃、物音に気づいた母親が振り返ると、オ ープンラックに置いていた籠が床に落下していました。女の子(1歳7ヶ月)は籠の中から容器を取り出し手に取っていました。その時点では、容器のキャップは開いていませんでした。母親は女の子をリビング内で遊ばせたまま、隣の部屋の掃除を続けました。
午後1時30分、母親がふとリビングを見ると、容器内に入っていたはずの錠剤2錠が床に落ちており、女の子がキャップを握り錠剤を口に含んでいるのを発見しました。 容器は空でした。母親はすぐに女の子の口の中から13錠を掻き出し、床に落ちた2錠を回収しました。

午後3時過ぎ、医療機関を受診しました。来院時、ぐったりした様子はなく、バイタルサインは異常ありませんでした。傷害予防教育を実施し、自宅経過観察の方針で帰宅となりました。

類似傷害・事故(抗精神病薬の誤飲)

2018年3月のある日の午前8時半頃、母親が外出し、自宅には男の子(1歳8ヶ月)と母方祖父母、父親、姉(2歳)がいました。なお、母親が不在の間は母方祖母や父親が男の子のお世話をしていました。しかし、男の子がひとりになる時間帯もあり、自宅でどのように過ごしていたかの詳細は不明です。

午前11時半頃、父親が男の子を抱き上げた際、一時的にけいれんのような動きがありました。しかし、一時的であったため経過観察としました。
午後1時、母親が帰宅しました。午後1時30分頃、男の子がソファから転落したことを姉が母親に告げました。転落を目撃した大人はおらず、男の子は居間の床の上で眠っている状態でした。男の子の周りには、母親の内服薬であるオランザピンの空包が9錠分散らばっていました。1錠は床の上で発見できましたが、残り8錠は行方不明でした。

午後1時50分よりけいれんが継続し、医療機関に救急搬送されました。その後、症状から別の医療機関に救急搬送されました。急性薬物中毒を鑑別診断の第一に挙げ、活性炭吸着療法を実施しました。中枢神経感染症も考慮して血液検査、尿検査、髄液検査を含む各種培養を採取し、初療の中で抗菌薬治療も開始しました。
意識障害が遷延したため、精査加療目的に一般病棟へ入院としました。入院時の血液検査、尿検査、頭部CT検査、頭部MRI検査、薬物中毒検出用キット、髄液検査では、明らかな異常所見はありませんでした。各種培養が陰性であることを確認し、入院3日目に抗菌薬を中止しました。

その後、入院5日目に意識清明となりました。虐待の可能性を否定的できないことから、院内虐待委員会および児童相談所にて審議を行なった上で、入院13日目に退院しました。退院後、入院時の血液・尿・髄液検体より高濃度のオランザピンが検出され、急性オランザピン中毒の確定診断となりました。退院後、男の子の成長発達の観察および養育環境の支援のために外来管理としました。外来経過に特に問題なく、2020年1月に終診となりました。

予防と対策方法

日本中毒情報センターによると、5歳以下の子どもによる医薬品の誤飲事故は平成24年8,388件、平成27年8,873件と高い件数で推移しており、減少傾向はありません。

日本中毒情報センターは、寄せられた情報と追跡調査から重篤な中毒症状となるリスクが高い薬剤を発表しています。それは向精神薬、気管支拡張薬、血圧降下薬、血糖降下薬です。
また、少量を誤飲しても重篤な状態になる薬剤として、三環系抗うつ薬、血圧降下薬(カルシウム拮抗薬,クロニジン)、血糖降下薬(スルホニルウレア薬)、サリチル酸、オピオイドなどを挙げています。

平成27年、厚生労働科学特別研究事業として、子どもの医薬品誤飲防止のための包装容器評価に関する研究がなされ、誤飲対策のあり方の基本的な方向性が示されました。製薬企業段階での包装の対策として、子どもが開封しにくく、中高年が使用困難ではない(Child Resistant and SeniorFriendly;CRSF)包装の他に、医療機関・薬局が調剤段階で実施可能な対応策についても検討を行い、液剤におけるCR容器の採用、PTPシートの裏面にシートを貼付して容易に取り出せないような方策、あるいは苦み剤(食品添加物)をPTPシートに塗布する等の対策案が示されました。
この報告を受け、厚生労働省は平成28年7月15日付けで3課長通知「子どもによる医薬品誤飲事故の防止対策について(包装容器による対策を含めた取組について)」を関係業界、関係団体の長宛に発出し、発出先の関係業界・団体には、日本製薬団体連合会、日本包装技術協会などの製薬業界、日本薬剤師会、日本病院薬剤師会などの薬剤師業界、日本医師会、日本歯科医師会、日本看護協会などの医療業界が含まれ、包装容器に対する対策を含めて、子どもによる医薬品誤飲事故防止のために配慮を行うよう求めています。

一方、対策を実施することで中高年の服用率の低下を招く可能性、コスト負担が増加する懸念もあります。このような懸念もあり、全ての薬剤に等しく対策を実施するのは困難であることが想定されます。しかし、子どもが誤飲した場合に重篤な状態になり得る薬剤に限って対策を試みることは一法だと思われます。例えば、イギリスでは一部の薬剤に限りチャイルド・レジスタント・パッケージの使用を法制化しています。

ご家庭でできる対策は、薬剤は乳幼児の手の届かない場所に置くか、鍵付きの収納ボックスなどに入れて保管することです。

鍵付き

出典:公益社団法人日本小児科学会「No.067 医薬品の誤飲による意識障害,けいれん

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