2021年6月、0歳(11ヶ月)の赤ちゃんが100円ショップで販売されている「水でふくらむボール」を誤飲し、緊急開腹手術を行う事故が発生しました。
最終的に赤ちゃんは無事に退院しましたが、病院の検査(腹部X線写真・腹部CT写真)では異物の存在が確認できない状況でした。「水でふくらむボール」の誤飲は病院でも判断が難しく、病院を3件も渡り歩く類似事例もあります。
本記事では、事故の原因や未然に防ぐための対策方法を日本小児科学会が公開した情報を元に紹介します。
「水でふくらむボール」は、小さくても水を吸水すると5~400倍に膨らむ、乳幼児にとって大変危険な存在です。同様の事故が起きないように対策を学んでください。
目次
事故発生の原因
事故発生当日、手術を受けた赤ちゃんは、兄である4歳の子どもと一緒に自宅の浴槽内にて、「水でふくらむボール」を使って遊んでいました。
その後、深夜に赤ちゃんが嘔吐します。吐瀉物の中にボールの一部が混ざっており、誤飲を疑ってすぐに救急外来を受診しました。
なお、この兄弟が遊んでいた場に大人の目撃情報はなく、いくつのボールで遊んでいたかも把握できていませんでした。
病院の治療・手術
来院後、体調不良の赤ちゃんは検査されましたが、腹部X線写真・腹部CT写真では異物が確認できませんでした。
そのため、病歴から「水でふくらむボール」による腸閉塞として、減圧目的にサンプチューブを挿入して入院となります。
そして同日、赤ちゃんの緊急開腹手術を行い、小腸が局所的に40mm程に拡張した場所から「水でふくらむボール」らしき異物を発見します。用手的に異物を結腸まで先進させ、閉復終了します。
翌日「水でふくらむボール」は自然に排泄されました。
手術から3日後、赤ちゃんは術後合併症もなく退院となりました。
なお、日本小児科学会のレポートによると、直接医療費は688,520円(入院費)だったとのことです。
類似傷害・事故
2021年12月にも、3歳の女の子が「水でふくらむボール」を誤飲する事故が起きています。
しかもこの時は、1軒目・2軒目の病院で異物誤飲が確認できず、誤飲から5日目に手術する事態となりました。
ある日の午後10時、3歳の女の子がどこから取り出してきたのか不明の「水でふくらむボール」を手にしていた様子を母親が確認します。母親はボール遊びをしているだけだと考えていました。
午後10時30分、女の子が嘔吐を繰り返します。母親は異物誤飲の可能性を疑い、午前2時に医療機関Aを受診します。しかし、異物誤飲が確認できず、一旦帰宅となります。
翌日、母親は医療機関Bを受診、胃腸炎として経過観察となります。誤飲から5日まで嘔吐が持続し、腹部膨満の症状がではじめます。
母親は医療機関Cを受診し、腸閉塞の診断がされます。手術目的で医療機関Aに転院し、緊急手術が行われました。
来院時、女の子は腹部膨満が著明でした。緊急手術では、腹腔鏡下で最も大きいボールの位置を確認し、小開腹で小腸を出し、切開して「水でふくらむボール」を複数個摘出しました。「水でふくらむボール」は最大径4cmで、破れてバラバラになっているものもありました。また、術後の排便時、さらに複数の「水でふくらむボール」を排泄しました。
3日間の集中治療室管理の後、女の子は消化器症状が改善したため、誤飲から9日目に自宅退院となりました。
なお、日本小児科学会のレポートによると、直接医療費は1,200,000円(入院費)+26,630円(外来費)だったとのことです。
予防と対策方法
「水でふくらむボール」に関連する商品は、おもちゃ、園芸、芳香剤などの分野で販売されています。元のサイズは直径1~20mm程度のボールですが、水を吸水すると5~400倍にも膨らむため、カラフルな外観と合わせて子どもから大人までその変化を楽しむことができます。
また、100円ショップや通信販売で容易に入手することができ、国内外で広く使われています(以下参照)。
製品のパッケージには、注意書きに「口にしないでください」「食べ物ではありません」などの記載はあります。しかし、誤飲の多い生後6ヶ月から2歳の乳幼児には判断がつきません。
また、国民生活センターから「保護者の目の届く範囲で遊ばせる」「子どもの手の届かないところで保管する」「誤飲に気づいた時には、医療機関を受診する」などの注意喚起がされています。
一般家庭で実践できる対策は、子どもの手に届かないところに管理することです。
また、対象年齢が記載された適切なおもちゃのみを与えることで、事故が起きる可能性を減らすことができます。
もし子どもが誤飲した場合はすぐに病院へ行きましょう。そして、お医者さんが経過観察を勧めた場合は、日本小児科学会の事例を伝えるようにしてください。
公益社団法人日本小児科学会「No.109 高吸水性樹脂球の誤飲による腸閉塞.pdf」
公益社団法人日本小児科学会「No.109 類似事例1.pdf」
日本小児科学会によると、「水でふくらむボール」に関する事故は増えています。
予防策として、対象年齢を変更する、子どもの興味を引きにくい目立ちにくい色にする、膨らんだ後も子どもの咽頭を通過できないサイズにする、製品の表面に苦味成分を塗布するなどの具体的な対応が製造者に求められています。
出典:公益社団法人日本小児科学会「No.109 高吸水性樹脂球の誤飲による腸閉塞」